『独立少年合唱団』の緒方明監督が、中年同士の愛をしっとりとしたタッチで情感豊かに描いたラブ・ストーリーの秀作。まるで時が止まっているかのようなふたりの感情が、次第にほぐれていく過程が実に丁寧に描かれている。緒方監督の故郷でもある長崎ロケの効果も抜群で、特に坂道が魅力的に、そしてせつなく捉えられている。田中裕子は本作でキネマ旬報主演女優賞など各賞を受賞。岸部、仁科もそれぞれ好演している。特に仁科は本作が久々の映画出演となった。(増當竜也)
映された背景の景色に見覚えがあると思ったら、長崎を舞台にしていた。
それでも、作者の意図により架空の地方都市という設定で、禁欲的に風景は使われている。懐かしい者にはもったいないとも思うけれど、そういう意図は正しいと言える映画だった。
田中裕子は、この映画で主演女優賞をとっているけれど、テレビで向田邦子のドラマなどでもたいへんな存在感で演じているから、特筆するほどの演技かどうかは別にしても、彼女の下記の話に現れているような、なんとも演技とは違う次元で、田中裕子という女優の魅力がたっぷりに味わえた。
「・・体力勝負で、体力だけ使っているような感じがするんですけれど、撮影が始まって2週間ぐらいが過ぎてわかってきたんですが、体力を使うことで余計な力が抜けてきた気がするんです。ハアハア言いながら階段を登るんですが、その時に運動靴がすれる音だったり、牛乳瓶が鳴る音だったり、あるいは夜が明けてくる色だったり、風だったり、そうしたものが体を抜けていって、その分、体が軽くなっていく感じがするんです。せつない物語ではあるんですけれど、そのせいで重苦しさは抜けていると思うし、私が感じた音や色や風が映像に映るといいなと思っています。・・」(田中裕子)』
大人の因縁もある秘められた恋心の、長い年月の熟成が切ないが、相手役の岸部一徳もとても好きな配役で、ふたりのクライマックスともいうべきラブシーン、というかなんというか、「いままでしたかったことぜんぶして」というような、五十代を迎えた男女の高まりの不器用さと露さが、とっても切なくて悲しくて、ハレンチで、嬉しくて(笑)、ふたりのシルエットが愛おしくて文句なしにすてきでした。
大人というのは、少年少女の頃の遂げられない思いを持ち続けたり、禁じたり、しちゃったらどうしたって哀しい。でもそいつは美しくてハレンチでとてもセクシーなんだ。
ストーリーは少し無理がある感じがするけれども、ところどころのカメラ・ショットと
いうのかしら、それがすごくいい。印象的なのは、美奈子さんが夜明けの町、あちこちに
黄色い灯火がポツポツと光っている青い町を眺めて、「町の家々全部に牛乳が配達できたらいい」と言うところ。そして、最後、カイタさんが亡くなって、これからなにを楽しみに生きていくのと聞かれて「本を読むわ」と答えるところ。
それと、高梨カイタさんが後ろ向きになっていて、小説家のおばさまが「高梨さん」と読んでも、美奈子がおそるおそる「高梨さん」と呼んでも気がつかない、それが美奈子が「カイタっ」と名前を読んだらぎょっとして振り向く、そのところである。
田中裕子さんは、ふだんから体とか鍛えているのでしょうか、あの何段もの階段をたったったっと、牛乳のびんをがちがち鳴らしながら昇っていく。
こんな人生、いいなーと思うのです。まいにちまいにち、昭和53年からでしたっけ、瓶の牛乳を配達して、昼はスーパーでそこそこの仕事をこなし、夜は部屋いっぱいに並んだ文学全集やらの本をねそべりながら読む・・・。
そうだ、朝は味噌汁を飲みながら美奈子さんは新聞を読んでいる。一面の下の新刊書で面白そうなものがあると、はさみで切り取りながら箱に入れているのです。味噌汁の湯気・・・。
始めに言ったとおり、ストーリーがちょっとしっくりしなくって、とくに高梨の奥さんが自分がまもなく死ぬからと、美奈子にカイタと一緒になって、と頼むくだりは、わたしにはどうも現実味が感じられない。それでも、ところどころのカメラ・ショット、それが平凡ながらうつくしい。それが好きです。
人生について、あるいは人間の幸福について考えさせられる作品。
平凡に見える人生にも、実はさまざまなドラマがあり、淡々と生きているように見えても、心の奥に、秘めた情熱の炎が揺らめいていたりする――。
田中裕子の演じる美奈子は、牛乳配達の仕事を生きがいと感じ、無聊を慰めるに読書をもってし、密かに想い続ける相手には病床の妻がある。
傍目には、あまり幸せそうには見えない彼女だが、本人にとっては、決して不幸な人生ではない。
また、彼女が思いを寄せる、岸部一徳の演じる高梨の人生も、最終的にそれが不幸なものであったのか、それとも自分として満足のいくものであったのかは、当人にしか分かりえないところがある。
幸福であるか、不幸であるかということは、他人からはなかなか推し量れないものだ。
自分にとっての幸福の基準とは何であるのか、改めて考えてみるきっかけとなる作品だった。
田中裕子は存在感があったなー。
ずっと離れていた間柄なのに、ちゃんと呼び捨てにも出来る。
昔ながらの話し方が出来たのは気持ちがずっと繋がっていたからだ。
不思議な恋愛だった。
こういう恋愛もあるんだな。
溺れたのが彼だと走りながらだんだん確信を持っていくところもいい。
いったいなんで溺れたんだろう。
あの笑顔は死んだ妻が呼んだからだろうか。
それとも恋が成就したからだろうか。
何十年もの恋があっけなく終わってしまった。
でも二人はずっと繋がっていた。
これで女はもう失うものがなくなって、「本でも読む」のだろう。
分からなくも無いけど、少し 題名と内容が不思議に思えた。若い頃に経験した事って、善きにつけ悪しきにつけ きっと自分の中でいつまでも残ってて、それが個人個人で美化されたり、時には その逆だったり‥でも アッと言う間の人生!色々な意味で考えさせられて、結果として良い映画に思えました。
年鑑代表シナリオ集〈’03〉
時計じかけのハリウッド映画―脚本に隠された黄金法則を探る (角川SSC新書 30)
アカデミー賞を獲る脚本術
1週間でマスター 斉藤ひろしのシナリオ教室 (1週間でマスター)
シナリオの基礎技術
予想外に充実した本です。
シナリオなのでどうかな…と思いつつ、読み進めていくと、
画面から感じたものとは、また別の感があって…
単なる復習本では決してありませぬ。
もちろん、背景にある坂道や俳優陣の演技や雰囲気に圧倒され、
聞き逃したり、見落とした点も結構あったりするので復習や補習には役立ちます。
上手く説明できないのですが、映画を見て、この本を読み終わって
『いつか読書する日』という1000ピースパズルが完成した感…とでも申しましょうか!?
シナリオ自体の量は少ないし、スタッフの説明も簡明でわかりやすく
ト書きが苦手な方でも、この映画が気に入った方には一読をオススメします。
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